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~神謡に舞姫は開花を願う~ 8

last update تاريخ النشر: 2025-11-21 11:24:38

「……僕は?」

 ふたつみっつと花開いていた珊瑚蓮は、気づけば数えられないほどの花をいちめんに咲かせていた。海の紺碧に桜色の蓮花が浮かび上がり、夢のような情景を描き出す。

「兄上!」

 仙哉の声に気づいた悠凛がパッと顔を輝かせ、駈けていく。カイジールは幽鬼となった彼が自我を取り戻した奇跡に呆然とし、視線を海へ落とす。

「まさか……女王陛下」

 貴女は仙哉を殺したと、そう言っていたのに。彼の自我は死んでなんかいなかった。珊瑚蓮の開花とともに、彼は蘇って、笑顔を咲かせている。

 同時に静まり返っていた神殿が、ざわめきを取り戻す。仙哉の生還が、国祖の狗たちにも伝わったのだ。

「――貴女は、どこまで悪役になりきれないのです」

 これだけ暴れておいて、結局自分が明確な殺意を持って手にかけたのは九十八代神皇帝ただひとり。彼女に振り回されるように現れた鬼神も、最後には自分の不利を悟って冥穴のなかへ帰ってしまった。悪しきモノを問答無用で浄化する桜色の珊瑚蓮が咲いたから。

 パシャ、と水が跳ねる音とともに、カイジールの耳元に甲高い笑い声が谺する。

『だって、愛していたんですもの』

 ただひとり
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    「……僕は?」  ふたつみっつと花開いていた珊瑚蓮は、気づけば数えられないほどの花をいちめんに咲かせていた。海の紺碧に桜色の蓮花が浮かび上がり、夢のような情景を描き出す。「兄上!」 仙哉の声に気づいた悠凛がパッと顔を輝かせ、駈けていく。カイジールは幽鬼となった彼が自我を取り戻した奇跡に呆然とし、視線を海へ落とす。「まさか……女王陛下」 貴女は仙哉を殺したと、そう言っていたのに。彼の自我は死んでなんかいなかった。珊瑚蓮の開花とともに、彼は蘇って、笑顔を咲かせている。  同時に静まり返っていた神殿が、ざわめきを取り戻す。仙哉の生還が、国祖の狗たちにも伝わったのだ。「――貴女は、どこまで悪役になりきれないのです」 これだけ暴れておいて、結局自分が明確な殺意を持って手にかけたのは九十八代神皇帝ただひとり。彼女に振り回されるように現れた鬼神も、最後には自分の不利を悟って冥穴のなかへ帰ってしまった。悪しきモノを問答無用で浄化する桜色の珊瑚蓮が咲いたから。  パシャ、と水が跳ねる音とともに、カイジールの耳元に甲高い笑い声が谺する。『だって、愛していたんですもの』 ただひとり、長い人魚の一生のなかで愛した人間。誰よりも彼のことを考えた。彼が愛した土地、ひと、世界を壊してでも、彼さえいればいいと思った。  けれどそれは間違いだった。オリヴィエは最後まで気づかずにいたのか、それとも気づかないふりを通していたのか……  カイジールは咲き誇る珊瑚蓮の花にそっと触れ、淋しそうに微笑う。「冥穴からやってきたボクのことは、消してくれないのかな」 「消えたかったんですか?」 「まさか。もともと人魚は異形なんだ。だからこういう事態に陥ったら消えても文句は言えないなぁと思っただけ」 背後で聞こえるのは晩餐の席で甘く囁いた青年の声。彼は男人魚だったときからカイジールのことだけをじっと眼で追っていた。自我を失わずに済んだのは、自分のことを想っていてくれたから、なのかもしれない。「でも、そしたら僕は泣いてしまいますよ」 珊瑚蓮の茎をかきわけて、仙哉がカイジールの前へ現れる。幽鬼となったときの記憶が抜けているからか、まだどこか夢を見ているような状態なのかもしれない。だから、素直に気持ちをぶつけてくる。どうせ、夢だから。「……女性になった貴女は、もっと綺麗ですね」

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       * * * 「なんなのよこの海水は!」 オリヴィエは困惑していた。人魚である自分に従順だった海が、いまになって反乱を起こしている。それもこれも、珊瑚蓮の精霊のせいだとわかっているから苛立たしい。「どうやら、形勢逆転のようだな」 ニヤニヤした表情でかつて愛したひとはオリヴィエに迫る。バルトの声に負けるものかとオリヴィエは甲高い声で言い返す。「そんなはずないわ、あたくしのちからが人間どもに劣るわけ……」 「ごめん、人間じゃないんだ」 波とともに現れた尾びれに、オリヴィエは声を荒げる。その声は、自分が封じたはずの、カイジールだったから。「カイジール?」 「ごきげんよう、女王陛下。ふふ、驚いた?」 男人魚だったはずのカイジールが、妖艶な女人魚に変わっている。これは、どういうこと?「革命の時間だよ」 その言葉に、オリヴィエの表情が固まる。「ボクが次のオリヴィエになる。海神サマとナターシャ神の加護を手に入れてね」 「ありえないわ、海神も国神も、すでに与えるだけのちからなど持っていないのにどうやって手に入れるのよ」 「奪うのさ。貴女から」 朗らかに応えてカイジールは魔術陣を描く。バルトたちとの戦いで疲弊していたからか、オリヴィエはあっさりとカイジールの術に嵌った。  きつい潮風が周囲を舞う。地面を這うように植物の深緑の根や茎が縦横無尽に伸びている。この光景をオリヴィエは何度も見たことがある。自分の死期が迫っている。イヤだ、まだ死にたくない。珊瑚蓮の花が咲いたらどっちにしろオリヴィエは一度消滅する。カイジールが革命を起こすまでもなく、オリヴィエがいなくなるのは決まっているのに……「ボクは、貴女をこんな風に逝かせたくない」 それだけのためにカイジールは自分がオリヴィエになろうとしているのだと、きっぱり告げる。  焦燥にかられるオリヴィエを憐れむようにカイジールが見つめている。その状況に息を飲んで見守るバルトと悠凛。そしてオリヴィエから離れた場所でじっと虚空を見つめている仙哉。抜け殻のように身動きすることもなくその場に佇んでいる姿から、すでに鬼神は仙哉から抜け出しているようだ。分が悪いとわかったらすぐに逃げるこの役立たず、と毒づくオリヴィエにも無反応な仙哉はすでに自分を主と認識すらしていない。それもこれも珊瑚蓮の精霊が邪魔をしたからだ。あ

  • 少年王が愛する蓮は誓いの海ではなひらく   ~神謡に舞姫は開花を願う~ 6

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  • 少年王が愛する蓮は誓いの海ではなひらく   ~追憶は桜真珠の君を導く~ 10

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  • 少年王が愛する蓮は誓いの海ではなひらく   ~追憶は桜真珠の君を導く~ 6

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  • 少年王が愛する蓮は誓いの海ではなひらく   ~陰謀と夜蝶は新月に躍る~ 5

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